化学専攻の大学生は就活をしてて、製薬企業の品質管理(品管)という仕事を知った人も多いと思います。
ただ、品管の仕事内容を調べてもなんかピンとこないし、大学でやってる研究にも関係ないし、そもそもあんまり面白くもなさそうだからってことで、あんまり人気はありません笑
そういうわけで、多くの学生さんが研究を志望します。私もそうでした。
ですが、需要と供給のバランスからいって研究職の採用はなかなかの狭き門です。
もちろん希望の通り研究職に就ければそれで良いですが、説明したとおりライバルも多く、やはり有名どころの大学の方が有利なのは間違いないです。
もしくは、最初から研究職は希望せず、品管に就職を希望する人もいるにはいますね。
なので、今回の記事は、
「もしかしたら研究職は無理なのかなあ・・・ちょっと保険のために品管の仕事内容を調べてみよっかな」
「研究職には興味ない。品管で就職しよう。でも実際品管ってどんな仕事なの?」
と、品管の仕事に少しでも興味を持った人に向けて
- 仕事内容を具体的にイメージできる
- 仕事はきついのかどうかがわかる
- 品管で働くメリット/デメリットがわかる
内容になっています。
そんな私は、転職で製薬企業に入って品管の仕事を10年以上やってきました。
この10年間、品管の良い面も辛い面もたくさん見てきました。
また、現在はグループマネージャーとして若手に仕事を振る立場にあり、品管の仕事の意義や逆に辛い部分を理解してもらわなければいけません。なので、品管の仕事をある程度客観的に分析できている自負があります。
では、さっそく内容をお話しします。
仕事内容
まず、仕事内容について説明します。
- 原料のサンプリング、受け入れ試験
- 工程内試験
- 製品のサンプリング、出荷試験
- 試験機器のメンテナンス
- 試験方法の妥当性検証(分析法バリデーション)
- 最新の薬局方、ガイドラインの動向確認
品管の仕事は簡単にいうと↑↑のとおりです。1つずつ具体的に確認していきましょう。
原料のサンプリング、受け入れ試験
メーカー、つまり物作り企業は、原料を買う→製品を作る→出荷するというのが仕事の基本的流れです。これは製薬企業とか関係なくそうです。
ただ、「薬」は人の体の中に入って働くものなので、国の規制がかなり厳しい分野だということはご存知でしょう。なので、薬はその原料についても入荷するたびに、その原料が目的の原料なのかどうか、品質もきちんとしたものなのかどうか確認を行う必要があります。
ということで品管では、入荷した原料から一定数量のサンプリングを行って、その原料に設定された試験項目について試験を行います。
サンプリングは、全梱包からサンプリングして試験をするのがグローバルスタンダードになっています。ということは、ある原料が100箱入荷した場合、100検体のサンプリングが基本的に必要です。これ結構、いや、かなり大変なんです・・・
試験は、簡単なものは目視で外観を確認したり、pHを測ったりするものですし、複雑なものだとガスクロや液クロを使うものまであります。FT-IRやUV、ビュレットを使った滴定なんかもよくありますね。
工程内試験
工程内試験は、製品の製造工程の途中段階で製品が完成する前に行う試験です。
例えば、二段階の反応を行う製造工程の製品があるとします。一段階目の反応が終わったところできちんと目的生成物ができていないまま二段階目の反応を行ってしまうと、結局きちんとした製品が完成しませんよね?
この場合、一段階目の反応が終わった時点で、品管が反応生成物のサンプリングをして目的物質ができていることを確認してから二段階目の反応を開始します。
こういうものを工程内試験もしくは工程管理試験と呼びます。
製品のサンプリング、出荷試験
次に完成した製品のサンプリング、出荷試験です。
まず、工場の製造ラインに入って完成した製品のサンプリングを行います。ただし、日本のガイドラインでは、「品管の人間が入ることで危なかったり、製造工程に悪影響があったりする場合には、製造ラインの人間がサンプリングを行っても良い」とされているので、サンプリングを製造ラインに委託しているところも多いです。
そして、製品の出荷試験を行います。試験内容は製品ごとに決まっています。こちらも原料と同じように、目視から機器分析まで幅広く実施します。
試験機器のメンテナンス
大学の研究室でもやってるかもしれませんが、試験機器のメンテナンスも大切な仕事の1つです。
ただ、これ、大学と同じ風に考えちゃいけません。大学の機器管理なんてぶっちゃけめちゃくちゃいい加減なんで・・・
機器のメンテナンスについても、国の規制にきちんと明記されています。
具体的な運用方法は、年間のメンテナンス計画を作って、例えば、毎月液クロのこの部品は交換するとか、年に1回は外部業者にメンテを依頼するとか、液クロのランプを何時間か使ったら交換とかそういうのをあらかじめ定めておきます。
あとは、この計画にしたがって、部品を交換したり、動作チェックをしたりします。
試験方法の妥当性検証(分析法バリデーション)
これは、会社によっては、研究部門の仕事の場合もあります。
薬の原料は、だいたい世の中で共通のものが多いので、試験方法も共通で決まっています。ただ、製品については、その会社その会社独自のものなので、自社で試験方法を開発する必要があります。
試験方法の開発自体は研究部門で行います。品管では完成した試験方法が、本当にその試験方法で分析ができるのかを検証する必要があります(繰り返しになりますが、研究部門で行う会社もあります)。
まあ、どういう検証をするのかも世界共通のガイドラインが出ているのでそれにしたがって行うんですが、例えば、液クロ分析の場合だと、目的物質のピーク位置に溶媒等に由来するピークがないことを確認したり(特異性)、許容できる精度で分析できることを確認したりします。
余談ですが、この検証のことを製薬業界では「分析法バリデーション」と呼ぶので覚えておいても損はないでしょう。
品管で日常的に行う試験は、分析法バリデーションが行われた方法か↓↓で説明する薬局方に載っている方法で行う必要があります。
最新の薬局方、ガイドラインの動向確認
さきほどもお話ししましたが、製薬会社は他の業界と比べて規制でガチガチです。
薬局方というのは、すでに一般的になった「薬」や「薬の原料」について試験方法や基準、その他の有用な考え方が記載されたもので各国に存在します。日本の薬局方は「日本薬局方」と呼ばれています。
日本薬局方は5年に1回改正され、またそれ以外にも何度か追補という形でアップデートされます。この改正や追補によって、従来の試験方法が変更されることがあります。この場合、品管で行っていた試験方法もアップデートする必要があります。なので、最新の情報を得るようにアンテナを張り、また変更される内容について理解し対応する必要があります。
仕事は「楽」
簡単に仕事内容について紹介しましたが、次に仕事自体はきついのか?考えて見ます。率直なところ私は「楽」な部類だなあと思います。
これは、私の友人たち(SE、プログラマ、化学メーカー研究職、製薬メーカー研究職、プラント設計者、教員等)の話を聞くとますますそう思います。
私の職場は基本的にほとんど定時上がりなので、同僚たちも子育てに励んだり、趣味を楽しんだりしていますし。
決められたことをこなすのが仕事
では、なぜ品管の仕事は楽なのでしょうか?
それは、さきほど紹介した仕事のほとんどが、手順書というマニュアルに方法が細かく決められているからです。
製薬業界には『誰がいつやっても同じ品質の医薬品を作れるように』という基本コンセプトを持つ規制(これをGMPというのですが今回はこの言葉は気にしないでOKです)が定められています。
これは例えば、マクドナルドでは、誰でも(バイトでも正社員でも)、どの店でも、同じ味・品質の商品を作れるように標準化したルール(ポテトは〇〇℃で〇〇分揚げる・・・等)を作って営業していますが、それと似た考え方です。
この規制(GMP)では、誰がやっても同じ結果になるように詳細なやり方を記した手順書を作りなさいということが言われています。
なので、手順書通りに試験を行うのが品管の仕事であって、逆にいうと変なオリジナリティは求められていません。
つまり、決められたことをせっせとこなすのが仕事なので、研究職のように頭を使うということはあまりありません。逆に、製造現場や建設業のように朝から晩まで体を使うこともありません。そして、営業職のようなノルマもありません。
こういう理由で、品管の仕事、結構楽だと思います。
メリット/デメリットは?
最後に品管で働くことのメリットとデメリットを確認してみましょう
【メリット】
- 仕事が楽
- チームで仕事をするので一体感を感じられる
- 患者さんに安全な医薬品を届けているという責任感が満たされる
- 化学実験ができる
【デメリット】
- チーム仕事のため有給が取りづらい
- 給料が安い
- 忙しさが生産日程に左右される
- 同じことの繰り返しに感じる
- 仕事に区切りがない
【メリット】
仕事が楽
さきほどお話しした通り、根本的に仕事は楽です。これは大きなメリットだと思います。
言い方が悪くなってしまうかもしれませんが、頭をあまり使いたくない人には大きなメリットになると思います。
チームで仕事をするので一体感を感じられる
意外かもしれませんが、品管の仕事は基本的にチーム仕事です。
周りの同僚と協力しながら仕事をこなしていくので、チームの中で力を発揮できているという気持ちとチームの一体感が好きという人には大きなメリットになると思います。
特に学生時代に部活でチームスポーツとか吹奏楽とかやってた人は結構やりがいを感じれると思います。
患者さんに安全な医薬品を届けているという責任感が満たされる
品管の仕事は、責任感の強い人にすごく適性があると思います。
というのも、実際の仕事では、原料の不良品を発見したり、自社で製造した製品でも出荷できないような製品が見つかることがやはりあります。
自分の化学の知識、技術、経験のおかげで、こういった不良品を発見できたときには、自分の存在によって患者さんがきちんとした薬を使うことができているんだなあと実感が湧くので、責任感や使命感が満たされます。これは大きなやりがいに繋がると思います。
化学実験ができる
化学専攻ということで、化学実験が好きな人もいると思います。
品管では、毎日、液クロやガスクロなどの機器分析や、ビュレットを使った滴定なんかをします。そういう実験が好きな人にとっては、良い職場だと思います。
【デメリット】
チーム仕事のため有給が取りづらい
さきほど、説明したように品管の仕事はチーム仕事です。となると若干有給が取りづらいです。
1人で仕事を進めているんだったら自分の仕事のペースで休みが取れますよね?一方で、チームで仕事をしているということは、自分が休むと誰かの仕事が増えてしまうということです。
まあ別に有給は労働者の権利なので、休んでも全然問題ないんですが、この誰かに負担をかけてしまうという心理が働く分、有給の取得率は他の部署よりも悪い気がします。
給料が安い
世の中やはり単調作業の仕事は給料が安いです。高い給料が欲しいなら、単調作業ではなく、世の中に対してもっと大きな価値を提供できる仕事をする必要がありますね。これは仕方がない・・・
私的には、品管は「仕事の難易度」と「給料」のバランスはおかしくない、まさに適正な評価がされた仕事だと思ってますが、同僚は結構給料が安いとグチってますね・・・
忙しさが生産日程に左右される
仕事は楽なんですが、繁忙期がどうしてもあります。まあこれは品管に限らずほとんど全ての仕事にあるものでしょう。
品管のメインの仕事は、「原料の受け入れ試験」と「製品の出荷試験」なので、製品の生産量が増えれば当然入荷する原料の量もできる製品の量も増えます。
ということで、工場の生産日程に忙しさが左右されてしまいます。来月のこの日は休みたいなあなんて思ってても、生産量が多い場合はなかなか休めません。生産量は自分の裁量でコントロールできないので、ストレスを感じることが多いですね。
同じことの繰り返しに感じる
これはイメージ通りかもしれませんが、品管の仕事は単調に感じる面が強いと思います。
確かに最初の頃は試験も新鮮に感じますが、これもしばらくすれば、毎日似たような原料をサンプリングして、似たような試験をして結果を出して、またサンプリングして試験してと・・・繰り返しに感じてしまいます。
何かクリエティブなことを!なんて考えている人には向かないのは間違いありませんね。品管の仕事はクリエイティブとは真反対に位置してます。
ルールを守ってできるだけ同じようにやるということが求められますので。
仕事に区切りがない
同じことの繰り返しとちょっと似てるかもしれませんが、これも人によってはつらいと感じます。
どういうことかというと、例えば研究職だったら、ある新製品開発のプロジェクトがありますよね。で、研究がうまくいって新製品が完成するとめでたく一区切りがつきます。このときに「あ〜終わった!」という気持ちの整理が一旦つきます。すると、また新しいプロジェクトに取り組んでいくモチベーションになるわけです。
他にも、営業職であれば、四半期ごとや半期ごとに目標の数字があって、それを達成できたとか、まあ達成できなかったとかとにかく結果が出ますよね。結果が出るので、そこでやはり気持ちの区切りがつきます。
ですが、品管の仕事に区切りはありません・・・工場で製造する製品をただひたすらに試験をする。また、規制もどんどん最新のものに変わっていくので、それに合わせるために日に日にルールが厳しくなっていく。そんな状況です。
毎日毎日を淡々と過ごせるタイプじゃないときついと個人的に思います。
※注意点
ここでいくつか注意してほしいことがいくつかあるので、お話しします。
まず、企業によっては(特に中小企業)、「品質管理(品管)」と「品質保証(品証)」をごちゃまぜにしているところがあります。名前は似てますが、この2つの仕事内容は全然違うものなんです。
ということは、品管を志望して入社したのに、フタを開けてみたら品証の仕事をするはめになった・・なんてことが起こったります。
品証はほぼほぼデスクワークですし、責任も重く結構胃が痛くなる仕事です。なので、就活の時は、どういう仕事内容の人材を募集しているのか確認しておいた方が良いです。
それから、品管でも研究的なことを含めてる会社もあったりします。これは、例えば、分析方法の検討とか、工場での製造方法の検討なんかです。
こうなってくると、全然ルーチンワークでもないし、頭もフル回転しなくちゃいけません。なので、やっぱり基本的な業務内容の確認をできる限りした方が良いですね。
まとめ
品管の仕事についてイメージできましたか?
私個人としては、品管の仕事に向いてるのは、責任感が強く、割と細かめな性格(あまり説明しませんでしが、異変を見つける仕事なので性格は細かい方が良いです)で、クリエティブなことをするよりも毎日毎日を淡々とこなしていくことが好きな人だと思います。
こういう人は品管の仕事にぜひ就いて活躍してほしいと思います。
逆に、何かクリエイティブなことをしたい、結構大雑把な人はミスマッチを感じることが多くなる気がするので避けたほうが良いです。